ウシ科 Bovidae
ヤギ属
Capra
ヤギ
Capra hircus の一品種カシミヤヤギの頭蓋

この種の角はほぼまっすぐですが、グルっとねじれています。なんともこのカーブの具合、ねじれ具合が美しい。ヤギの角は、骨質の芯(前頭骨の角突起)の周りに、ケラチン質の硬い表皮の鞘が付いた、いわゆる「洞角(ほらづの)」です。これはウシ科の動物の角に共通していて、一生、生え変わることがなく、シカの枝角(えだつの)ように枝分かれはしません。写真では洞角の中空の内部をのぞいています。この中に前頭骨の角突起がはまっていますが、標本では洞角をスポっと取り外すことができます。
前頭骨の角突起はちょうどヒトでいうところの前頭結節といったところでしょうか。前頭骨はたいてい他の偶蹄目の動物では、(ヒトとは異なって)左右が癒合せず、前頭間縫合(ないしは眉間縫合)が残っているのですが、このカシミヤヤギの前頭骨は角突起間の角間隆起より前は癒合していますが、後ろでは縫合が残っています。背面から写した写真を見ても分かるように、前頭骨では縫合が残っていて、頭頂骨間の矢状縫合が見当たらず、左右の頭頂骨が癒合しています。ヒトの解剖学ではどうも書物を通して知識が先に入り込んでしまっていて標本を見てもそれを確認するような見方になってしまったのですが、持っている家畜解剖学の本には案外スタンダードな種以外の動物の細かな点は書かれていないため、実物を眺めていて初めて気づく点が色々とあるのが面白い限りです。
最近、種々の動物の頭頂骨の癒合を気にして見ていましたが、偶蹄目のウシ科の仲間(ウシ、ヒツジ、ヤギ、インパラ)の成獣の頭頂骨はみな左右が癒合しているようです。偶蹄目の他のラクダ科のラクダ、シカ科のニホンジカ、キリン科のキリンも見た限りでは癒合していました。さらに、私の持っているイノシシの頭骨(イノシシは偶蹄目イノシシ科)も頭頂骨が癒合していますが、ブタは癒合していないようです(ネオテニー?)。そして、見た限りでは偶蹄目の成獣は左右の前頭骨が癒合していません(カシミヤヤギは例外的?)。もっとも癒合は成長の段階で生じるので、必ずしもすべての個体が上記の結果に従うとは限らないですが

またヒトでは早い段階で癒合する切歯骨がこれらの動物ではほとんど癒合せずに独立しています。それにヒトではインカ骨などとも呼ばれる頭頂間骨がウサギその他では通例存在しています。
話は違いますが、後ろから見たカシミヤヤギの写真は何かウサギの顔のようだ

頭蓋・前方から

頭蓋・後方から

角と前頭骨の角突起

前頭骨

頭蓋・後面